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音楽コラム「世にも恥ずかしいオリジナルテープ」

txt.赤田りんたろう
(ミリオン出版「おとこGON! VOL1」98年夏ごろ)

A面
・オフコース
・大江千里
・森高千里
・河村隆一
・尾崎豊
・沢田知可子
・テレサ・テン
・徳永英明
・中山美穂

B面
・LIND BERG
・Body
・矢沢永吉
・安全地帯
・アン・ルイス
・B’Z
・鶴久政治
・原由子
・チェッカーズ
・(ボーナストラック)安田成美


 道ばたでカセットテープを拾った。
「97NATSU FOR YOUKO」
 レーベルにインレタで刻まれたローマ字が興味を引く。今時このセンスはリスぺクトに値する。恐らくオリジナルテープであろう。
 ところでオリジナルテープとはなにか?その本質を一言で表わすならば、ズバリ「オレ節」に尽きる。オリジナルテープ作りの目的の中で、それを端的に示す代表例として「口説きの雰囲気作り及び自分の趣味の良さ(と自分で思っている)のひけらかし」が挙げられる。換言するならば、恋愛ゴッコに興じるタイプにありがちな「頭の中でBGMが流れている状態」を、自分だけの幻聴にとどめず実際に相手に聞かせて、アイ・フィール・コークなオレ・ワールドに引きずり込むために作った、あるいは「ステキな曲イッパイ知ってるのね」と女に言わせたいがために作った、そんな「オレオレの歌」が口説き用のオリジナルテープなのだ。しかし実際にそれでコロッとイッちゃう女の子が絶えないことからそれなりに効果は認められるのである。
 だが、それなりのセオリーもある。最も重要なのはイントロ。例えばドライブに誘った場合、オーソドックスにはユーミンの「中央フリーウェイ」あたりか。たとえ関越や東名を走っていても、である。その後の選曲は相手のタイプにもよるが、普通の地方育ちのOLであればサザン、B’Z、ドリカムなど、夏ならチューブ、クリスマス前は山下達郎でも適当に散らして、まあ、シメで男らしい所を見せるつもりで長渕剛「人間」なり、さだまさし「関白宣言」でも入れてビシッと決めると。これでオールオッケー。ヨロシク。
 さて、件の拾得したオリジナルテープだが、さっそく回してみたところ、これがまた無難な選曲でまとめられたつまらないテープだった。オフコースに始まって、大江千里、森高、河村隆一と前掲の通りのラインナップなのだが、…はて?曲を聴いていてピンと来るものがあったので少し調べてみた。すると驚愕の事実が浮かび上がった。なんと全ての曲名が「I LOVE YOU」なのだ。これをストレートと取るか、回りくどいと取るかは微妙なところだ。だが後半の曲は、矢沢永吉「アイ・ラブ・ユーOK」安全地帯「I LOVE YOUからはじめよう」など徐々に苦しくなってくる。鶴久政治「I LOVE YOUは今さら言えない」(言えないのか)原由子「I LOVE YOUはひとりごと」(そうかもな)チェッカーズ「I LOVE YOU SAYONARA」(サヨナラしてどうする)ここまで来ると、よくやった、と褒めてやりたい。制作者の恋はうまくいったのだろうか。気になるところだ。
 が、最後の曲が終わると、これが重ね録りで作った代物だったことが判明する。突然流れ出した消し忘れの曲は「風の谷のナウシカ」だった。

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