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ガンダムのある風景

txt.赤田りんたろう
(アスキー「G20 vol6」1999年夏ごろ
ガンダム20周年記念で出たガンダム専門誌。
当時見知らぬアスキーから突然お呼ばれして書いたコラム)

 諸兄は「ガ印」(がじるし)という言葉をご存じだろうか。これはまあ、音の響きからも推察できるかとも思うが、あのー、つまり、そんな感じのガンダムファンを指す言葉。
 ガンダムファンの世界には、それこそ小姑よりもうるさくて恐ろしい「本当のガンダムファン」を名乗る方々がいる。運悪く、そんな人の前で「ぼく、ガンダム好きなんですよ」などと言ってしまった場合。これは経験からの話だが、いくつか腕試し的な質問をされた後、いきなり指をさされて宣言されちゃう。
「お前にガンダムを語る資格は無い!」
 語る資格のない者=オレより人間が格下、と言わんばかりの勢いで、さらに無限コンボをたたき込んでくる。
「オレなんかなあ、ガンダムのことを誰よりも知っているし、好きだし、知っているし、好きだし(以下電池が切れるまで繰り返し)」
 こうなるとコッチはもう脅えた子ウサギのように縮み上がっているしかないワケで。
 ところでG20編集部に一通の手紙が届いた。「U.C.VOICE」では扱い切れないので、となぜか担当編集氏がこちらに回してきたシロモノである。これがタイヘンなブツ。であるのでここに紹介してみたい。
 パンパンに膨れた茶封筒に赤鉛筆で呪うように宛名書きされたそれは、何かを予感させずにはいられなかった。裏を返してみても差出人の名は無い。ギュウギュウに詰め込まれた紙の束を封筒から取り出し、歪に折り曲げられたそれを開いてみる。鉛筆書きによる達筆な(と言っておこう)小さい字でビッシリと埋められた便箋に書かれたソレ…。句読点が全て省略されているという、ある種の方々によく見られる独特の文章作法であった。私は軽いめまいを覚える。
 22枚、約9万字に及ぶ文を読解するのに休憩3回と食事2回、原稿催促の電話1本を挟み、約8時間。ズバリ言って芥川賞受賞作品「日蝕」よりも難解。難しい漢字を使わなくても難しい文章は書けるのだなあ、とライターを名乗る者として感心しきりなのである。
 手紙の内容はまず、「ハンパガンダムならばガンダム専門誌を名乗るのおやめていただきたい」と、自分がいかにガンダムについて知っているか、ということをちりばめながらのG20に対する苦言から始まる。これが約4万字。そして「ガンダムとなのつくものわ買わずにわいられない」などと続く。そんな微笑ましい一般ユーザーとしての弱気な一面を晒しつつ、普段自分がいかにガンダムのことだけ考えているかについて、また生活費のほとんどをガンダムに注ぎ込んでいる模様などを綴る。これは私小説? すでに文学の領域? かと思えば今度は「ところでZZと逆シャアの間の宇宙世紀史の補完わ急げ」と宛先不明の要請。さらに公式設定について話が及ぶと、それがいつのまにか自分の考えたオリジナルのジオンエースパイロット伝記になってたり。さらに「G20のようなガンダム専門誌わ本来小生のような生がいをガンダムに捧げた者しか作ってはいけないのだ全ページを設定の補完する企画にしサンライズに公式設定にさせる」と男らしく断言。最終的には「小生が貴誌にて執筆してもかまわない」とのステキな申し出で締めるという、実にハラショーなお便りであった。おまけにペンネームが「メガネっ娘大好きっ子」なのだから言うことナシ。
 指差し宣言の人やメガネっ娘大好きっ子氏など、こうした頑なガンダムファンは、他人のガンダム観を決して認めない。ガンダム一筋の人生でガンダムがプライドでありガンダムが自我である人にとっては、何がなんでも「俺のガンダム観」が絶対。決してハンパに触れてはいけない話題なのだ。それは例えるならば空手バカ一代に対して「空手ってイイですよね」などと言うに等しい行為だ。そんなことを言えば即座に鉄拳が飛んできて、
「キミィ! ワダシが若い頃はネ、素手で牛を殺したヨ! 岩を指で引きチギったヨー!」
 と説教が始まってしまうのは当然。
 同様にそのテのガンダムファンにとってもガンダムはズバリ「道」。「みんなでガンダムを遊ぼう」などという軟弱な考えなんか、
「キミィ、寸止めはガンダムじゃないヨ! ガンダムとは一撃必殺のフルコンタクトガンダムのことだけヨ! 当てないガンダムなんてガンダムダンスだヨー!」
 と一蹴されてしまう。つまりこのテのファンにとって、人と対峙してガンダム観を語るということは「闘い」なのだ。そしてガンダム観は軽々しく語るものではなく、内面で練り、極めていくものなのである。鍛え上げたガンダム観は正にコレ凶器、いや狂気。
 もっとも、最近は正面から打ちあわず、スカした態度で自己の防衛に徹する人が増えてる。「俺のガンダム観は400戦無敗」的な積極性に欠けた、つまらないガンダム観が横行しているのはそのためか。だが、そんな彼らもネットでは大活躍。直接の対話ではないので匿名で過激な発言や捨てゼリフ的な発言でガンダム観を語れる。すなわち、技術の進歩により隠密行動を伴ったヒット&アウェイ戦法が可能となったのだ。卑怯なのではない、これが闘いというものなのだよ!(富野調)
 ところで件の手紙のメガネっ娘大好きっ子氏は本名も連絡先も書いてない匿名の人。もし編集部が執筆依頼を検討しても、これではどうすればよいのやら、である。

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